サッカーの試合で、審判に詰め寄る選手たちを一斉に取り囲む――そんな光景、Jリーグやプレミアリーグでもよく目にします。実はこの状況を改善するため、2025年から競技規則第3条に「キャプテンオンリー」という新ガイドラインが追加されました。
ざっくり言えば、「主審に話しかけられるのは、各チーム1人(通常キャプテン)だけ」というルールです。
ただし正直に言うと、現役の2級審判として現場に立つ立場から見て、このルールを意識して運用している審判を神奈川県の高校年代ではまだほとんど見かけません。ルールはあるけど浸透していない、それが2026年4月時点のリアルです。
とはいえ、選手・指導者・保護者審判にとって「知らないと損する」ルールなので、この記事で基本ガイドラインを整理します。
高校教員 × JFA公認2級審判員 × C級コーチ。神奈川県を中心に年間数十試合を担当。Instagram「サッカー審判のリョータ」(フォロワー1,000人超)で審判向けの実践情報を発信中。
【前提】競技規則第3条が何を定めているか
競技規則第3条は「競技者」に関する規則で、ピッチ上の選手の人数・交代・キャプテンの役割などを定めています。2025年の改正で、この第3条に「主審とのコミュニケーションに関する新ガイドライン」が追加されました。
条文を要約するとこうなります。
主審に話しかけることができるのは、各チーム1人の競技者のみ(通常はキャプテン)であり、話しかける際には常に敬意を持って接しなければならない。
つまり、監督・コーチ・キャプテン以外の選手が主審に抗議したり話しかけたりするのは、原則としてNGです。
なぜこのルールが必要とされたのか
IFABの公式文書には、以下のような背景が書かれています。
主審やその他の審判員は、判定を下す際に言葉や行動による異議にたびたびさらされている。極端なケースでは、競技者に走り寄られる、取り囲まれる、あるいは威嚇されることもある。
審判を取り囲んで威嚇するシーンはJリーグでも頻繁に見られますが、あれを減らすのがこのルールの狙いです。主審の権威を守ることで、審判員の新規獲得・継続にもつながり、サッカー界全体の持続可能性に寄与するという発想です。
審判不足は世界的な課題で、日本でも深刻化しています。ルールの整備でその流れを止めようというのが、IFABの問題意識です。
基本ガイドラインの6つのルール
キャプテンオンリーの基本ガイドラインは、以下の6項目で構成されています。
- 各チームから主審に話しかけられるのは、1人の競技者のみ(通常はキャプテン)
- 話しかける際には、常に敬意を持って接する
- キャプテンを含め、言葉や行動で異議を示した競技者は警告(イエローカード)
- 主審は、必要に応じてキャプテン以外の選手(反則者・ファウルを受けた選手など)と話すことができる
- キャプテンは、チームメイトを主審から遠ざける責任を負う
- 許可なく主審に近づいたり取り囲んだりした競技者は、警告される「ことがある」
「警告される”ことがある”」という表現の意味
6番目に注目してください。「警告される」ではなく、「警告されることがある」と表現されています。つまり、主審の裁量次第でカードを出すかどうかを判断できるという柔軟性があります。
この柔軟性がある分、「一度注意して様子を見る」という対応も正当化されます。一方で、この柔軟性ゆえに運用にばらつきが出やすく、浸透も遅れがちというデメリットもあります。
GKがキャプテンの場合の特例
GKがキャプテンのチームでは、少し特殊な扱いになります。
- キックオフ前のコイントスまでに、GKの代わりに主審に話しかけられる選手を1人指名する
- 主審に話しかけられるのは、GKか指名された選手のどちらか一方のみ
- 指名された選手が交代・退場になった場合、別の選手を新たに指名する
神奈川県の試合でも、キャプテンがGKというチームは一般的です。その場合、このルールを事前に主審に伝える手順が必要になります。
現場の運用実態|浸透していない3つの理由
このルール、神奈川県の高校年代では、意識して使っている審判を筆者は見たことがありません。浸透していない理由を考えてみると、以下の3つが挙げられます。
理由1:審判講習会でまだ十分に扱われていない
2025年導入のルールなので、審判講習会の教材も追いついていない状況です。「こういうルールがある」と知識として共有される程度で、具体的な運用方法までは浸透していません。
理由2:現場の”空気”との摩擦
日本のサッカー現場では「選手と審判の対話」を大切にする文化があります。ルールで明確に線を引きすぎると、逆に距離感が硬くなって試合の雰囲気を損ねる懸念を持つ審判もいます。
理由3:事実上のキャプテンオンリーはすでに存在していた
ベテラン審判ほど、競技規則に明記される前から自然とこう指示を出していました。「キャプテン、来て」「他の選手は下がって」と。つまり、IFABが明文化したのは、既に現場で行われていた良い運用を正式なルールに格上げしたという側面があります。
知らないと選手側が損する時代に
ルールとして明文化された以上、今後は「審判に文句を言ったらすぐイエロー」という時代が来る可能性が高いです。特に上位リーグから順に浸透していくはずで、ユース・高校年代にも数年以内に降りてきます。
知らずに抗議して警告、というパターンが増える前に、選手・指導者・保護者が正しく理解しておく必要があります。
主審として運用するなら|実践ステップ
現役審判の立場から、キャプテンオンリーを実際に運用する場合のステップを整理します。
ステップ1:試合前のキャプテンとの事前共有
コイントス時に両チームのキャプテンに「判定について話しかけるのはキャプテン以外は受け付けません」と明確に伝えます。これで選手・ベンチへの周知がスムーズになります。
ステップ2:試合中の「下がって」という明確な指示
キャプテン以外の選手が近づいてきたら、「キャプテンだけお願いします」と手のひらを向けて明示的にコミュニケーション。空気感ではなく、言葉と所作で境界を作ります。
ステップ3:抗議の取り囲みには毅然と対応
複数選手が近づいてきたら、主審は一歩引いて距離を作り、キャプテンだけを呼び出して話します。複数人で取り囲むこと自体が異議行動として警告対象です。
よくある質問(Q&A)
Q1. 監督・コーチもキャプテンオンリーの対象ですか?
はい、監督・コーチはそもそもフィールド内に入って主審に話しかけることが原則できません。コーチングゾーン内からの指示は可能ですが、主審への抗議は別ルール(2019年改正で監督・コーチもカード対象)で規制されています。
Q2. キャプテンが負傷した場合、誰が話しかけますか?
副キャプテン(vice-captain)が代行します。チーム内で事前に副キャプテンを決めておくのが望ましいです。
Q3. 「抗議ではなく確認」の場合も、キャプテンしか話しかけられないのですか?
ルール上はキャプテン優先ですが、主審は「必要に応じて他の選手と話すことができる」とされています。反則を受けた選手の状況確認など、主審の判断で柔軟に対応可能です。
Q4. 少年サッカーでも同じルールが適用されていますか?
はい、JFA管轄の競技会は全カテゴリで適用対象です。ただし少年年代では教育的な運用が優先され、即カードより口頭注意が多くなります。
Q5. このルールを破ったらすぐにイエローが出るのですか?
基本ガイドラインでは「警告されることがある」という表現なので、主審の裁量次第。一度目は口頭注意で済ませる審判も多いと想定されます。
まとめ
- 主審に話しかけられるのは各チーム1人だけ(通常キャプテン)
- 敬意を持って話しかけるのが前提
- キャプテン以外が話しかけたら警告の可能性
- GKがキャプテンなら事前に代理を指名
- 神奈川県の高校年代ではまだ浸透していない
- でも今後「知らないと損する時代」が来る
基本ガイドラインの上位版として「4mキャプテンオンリーゾーン」というさらに厳格なルールも存在しますが、こちらは適用範囲が限定的です。詳しくは別記事で解説しています。
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