W杯開幕戦でレッド3枚。DOGSOの新ルール、知らないとこの試合の見方が変わる
メキシコ対南アフリカ。W杯2026の開幕戦を観ていて、「え、またレッド?」と思った人は多いはず。
49分にシトレ、84分にズワネ、90+2分にモンテス。計3枚のレッドカード。開幕戦での3退場はW杯史上初で、大会全体でも2006年ポルトガル対オランダ以来、20年ぶりの珍事だった。
ただ、この試合を「荒れた試合だった」で終わらせるのはもったいない。今大会から適用されている26/27年競技規則の改正、特にDOGSO(決定的な得点機会の阻止)に関する変更を知っていると、見え方がまるで違ってくる。
3枚のレッドカード、何が起きたか
1枚目:スフェフェロ・シトレ(南アフリカ)49分
後半開始直後。メキシコのブライアン・グティエレスがゴールに向かって抜け出したところを、シトレが倒した。主審ウィルトン・サンパイオはDOGSO(決定的な得点機会の阻止)と判断し、一発レッド。
DOGSOの判定には4つの考慮事項がある。
- 反則とゴールとの距離
- 全体的なプレーの方向
- ボールをキープできる、またはコントロールできる可能性
- 守備側競技者と攻撃側競技者の位置と数
ここで気づいた人もいるかもしれない。「攻撃側競技者の位置と数」。これ、従来は条文に明記されていなかった。26/27年の改正で追加された項目だ。
2枚目:テンバ・ズワネ(南アフリカ)73分
ズワネがアルバラードの顔を平手で叩いたとして、VARの介入を経てレッドカード(乱暴な行為)。
TV中継の映像だけ見ると「これでレッド?」という反応が多かった。南アフリカのブロース監督も「厳しすぎる。メキシコの選手がブロックしていた」と不満を表明している。ただ、競技規則上「乱暴な行為」は過剰な力を用いた、またはボールに挑んでいないときに相手を打つ行為であり、ボールと無関係な場面で顔を叩いたのであれば、レッドカードの対象になる。
3枚目:セサル・モンテス(メキシコ)90+2分
アディショナルタイムに南アフリカのカウンター。ムダウがペナルティーエリア手前で抜け出しかけたところをモンテスが引っかけた。判定はDOGSO。
SNSでは「SPAでイエローじゃないのか」という声が多い。ESPNも「驚きの判定」と書いた。気持ちはわかる。ただ、審判の目線で見ると、あの場面は100%DOGSOだ。抜ければそのままシュートに行ける状況──これが「決定的な得点機会」でなければ何がそうなのか、という話になる。
26/27年改正でDOGSOはどう変わったか
今大会から適用されている26/27年競技規則では、DOGSOに2つの変更がある。
変更1:アドバンテージ→ゴール=カードなし
これが最大の変更点。
| 状況 | 25/26(旧) | 26/27(新) |
|---|---|---|
| DOGSOファウル→アドバンテージ→ゴール | レッド→イエローに軽減 | カードなし |
| DOGSOファウル→アドバンテージ→ゴールならず | レッド→イエロー | レッド→イエロー(従来どおり) |
ゴールが決まった以上、「得点機会を阻止した」という事実が成立しない。だからカードも出さない。論理的に筋が通っている。
変更2:考慮事項に「攻撃側競技者」を追加
従来のDOGSO判定は、守備側の位置と数が中心だった。新ルールでは「攻撃側競技者の位置と数」も明示された。
たとえば2対1のカウンター。ボール保持者が倒されても、フリーの味方にパスできる状況なら、倒された選手個人にとっての「決定的な得点機会」だったとは言い切れない。逆に、1対1で他に誰もいなければ、DOGSOの認定はより明確になる。
開幕戦の判定を新ルールで読み直す
シトレの退場シーン(49分)とモンテスの退場シーン(90+2分)。どちらもファウルで攻撃側の選手が完全に倒されており、アドバンテージを適用できる状況ではなかった。倒された選手がそのままプレーを続けられないなら、アドバンテージの前提が成立しない。
つまり今回の2つのDOGSOに関しては、新ルールの「アドバンテージ→ゴール=ノーカード」は適用場面ではない。サンパイオ主審がホイッスルを吹いたのは当然の判断だ。
では新ルールが効いてくるのはどんな場面か。たとえば、後ろから足をかけられたが体勢を崩しながらもボールを前に押し出せた──そういう「倒れきっていない」場面だ。従来なら笛を吹いてレッドを出すのが安全策だったが、新ルールではアドバンテージを見て、ゴールが決まればカードなしという選択肢が生まれた。
モンテスの退場について「攻撃側の位置と数」の新規定で見直すとどうか。ムダウの周囲に味方がいたかどうかは一つの論点だが、あの場面ではムダウ本人が抜ければシュートに行ける状況だった。パスの選択肢があったかどうかは関係なく、ボール保持者自身のチャンスとしてDOGSOが成立している。
新ルールが本当に効くのはこれからの試合
今回の開幕戦では、DOGSOの新ルールが直接適用される場面はなかった。ファウルの強度が大きく、アドバンテージの余地がなかったからだ。
ただ、大会が進むにつれて「倒れきっていないけどファウルはあった」という微妙な場面は必ず出てくる。そのとき主審がアドバンテージを選ぶかどうか。ゴールが決まればカードなし、決まらなければ戻してレッド──このプレッシャーは相当なものだ。
私が2級審判員として実際に吹いていても、DOGSO級のファウルでアドバンテージを出すのは勇気がいる。ルール上は合理的でも、「見逃した」と言われるリスクを背負う判断だからだ。
今大会を観るとき、DOGSOの場面で「なぜ笛を吹いたのか」「なぜアドバンテージにしなかったのか」を意識すると、審判の判断の重みが見えてくる。
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