PA内ハンドの判定はどう決まる?|現役2級審判員が競技規則から解説
2026年5月17日、川崎フロンターレ対FC町田ゼルビアの試合終盤、町田・中山雄太の手にボールが当たったとしてVARが介入。OFRの結果、PKの判定。本人は「絶対に当たっていない」と主張し、黒田監督も「映像のアングル的にどうだったのか、もう一回見てみたい」と試合後にコメントしている。
実際の試合では、こうした選手の主張は珍しくない。判定する側は競技規則に沿って判断する。最新のIFAB競技規則(2025/26)から、PA内ハンドの判定基準を整理する。
競技規則 第12条は何を定めているか
サッカーの競技規則は国際サッカー評議会(IFAB)が制定し、日本サッカー協会が日本語訳と解説を毎年公開している。
第12条「ファウルと不正行為」では、ハンドの反則を次のように定める。
競技者が次のことを行った場合、反則となる。
– 手や腕をボールの方向に動かす場合を含め、手や腕を用いて意図的にボールに触れる
– 手や腕で体を不自然に大きくして、手や腕でボールに触れる
反則となるのは2パターンだけ。意図的に触れたか、不自然な位置で触れたか。手に当たれば即ハンド、ではない。
反則とならない4つのケース
反則にならないケースも明文化されている。
- 競技者自身の頭または体(足を含む)から直接触れる
- 近くにいた別の競技者の頭または体(足を含む)から直接触れる
- 手や腕は体の近くにあるが、手や腕を用いて競技者の体を不自然に大きくしていない
- 競技者が倒れ、体を支えるための手や腕が体と地面の間にある。ただし、体から横または縦方向に伸ばされていない
実際の試合で多いのは3つ目だ。自分の体や別の選手から跳ね返ったボールが、たまたま自然な位置にある手に当たるケース。これは取らない。
「不自然に大きくしている」とは何か
判定で議論になるのは決まってこの部分。競技規則ではこう説明される。
手や腕の位置が、その状況における競技者の体の動きによるものではなく、また、競技者の体の動きから正当ではないと判断された場合、競技者は、不自然に体を大きくしたとみなされる。
判断の軸は2つだ。
- 手や腕の位置:シュートコースを塞ぐ位置にあるか
- 体の動きとの整合性:走る、跳ぶ、ターンする動作から自然に説明できるか
ジャンプ着地でバランスを取る腕の動きは自然。ターンや切り返しで腕が振れるのも自然。シュートに対して腕を張り出す形になれば、自然な動きの範囲を超える。
実際に試合を吹いていると、この判断を瞬間的に下さなければならない場面が何度も出てくる。ボールが当たった瞬間の手の位置、その直前の動き、選手がボールを見ていたか。すべて一瞬で処理する。私が見ているのは「腕の位置が体の幅を明らかに超えていたか」だ。
PA内ハンドの懲戒罰
PA内のハンドでPKを与える場合、懲戒罰の扱いは2024/25シーズンに整理された。意図的でないハンドでPKを与える場合、他のファウル(キッキングやトリッピングなど)と同じ扱いになる。
DOGSO(決定的得点機会の阻止)に該当しても、ボールにチャレンジしていれば退場ではなく警告止まり。SPA(大きなチャンスとなる攻撃の阻止)の状況なら懲戒罰なし。明らかに意図的なハンドや、ボールにチャレンジしていない状況なら規定通りの懲戒罰となる。
リーグ・大会で判定基準が違う
同じIFAB競技規則を運用していても、リーグや大会で判定の基準は揃わない。
プレミアリーグを統括するPGMOLは「higher threshold(より高い閾値)」の方針を採用している。2025/26シーズン開幕前のブリーフィングでも「ハンドの反則についても引き続き高い閾値を適用する」と公式に確認された。軽度の接触ではハンドを取らない運用が続いている。
一方、UEFAが管轄するチャンピオンズリーグでは、FIFAの解釈に近い、より厳格な運用だ。元FIFA国際審判のクリスティーナ・アンケル氏はCBSスポーツでの解説で、UEFAはFIFAの分析・解釈に近い指導を行っているため、PLより頻繁にハンドPKが取られると説明している。
数字でも差が出ている。The Athleticの2026年3月の報道では、CLでのハンドPK判定数はPLの2倍以上。2025/26シーズンの1試合あたりVAR介入率はPLが0.27、CLが0.45と倍近い差がある。
この状況を受けて、UEFA審判委員長のロベルト・ロセッティ氏は2026年2月のUEFA総会で欧州全体での解釈統一を訴えた。
欧州で異なる技術的言語を話してはいけない。クラブが国内と欧州の大会を行き来する以上、解釈の違いはプレーヤー、指導者、ファンを混乱させる。
PGMOLのハワード・ウェブ氏らとの協議を通じ、来季以降の統一を目指す方針だ。
J-LeagueのVAR運用は、UEFA・FIFA基準に近い。PA内で守備側の手や腕が体から離れた位置でボールに触れた場合、Jリーグでは厳しめに判定される。同じシーンでもPLなら取られない、ということが起こりうる。
中山選手のシーンに当てはめると
町田・中山選手のシーンに戻る。VAR介入してOFRが行われたということは、映像で接触事実が確認できたということだ。そのうえで主審がPKと判断した。
判定する側のチェックポイントは3つ。
- ボールが手や腕に触れたか
- 触れた手や腕の位置は、体の動きから自然に説明できるか
- 意図的に手を動かしたか
本人の「当たっていない」という感覚は、必ずしも嘘ではない。
スリの被害者が、財布を抜き取られた瞬間にまったく気づかないことがある。触覚の感度の問題ではない。強い注意が別の対象に向くと、身体への軽い接触は意識に上がりにくい、という現象だ。
サッカーのブロック動作も同じ構造にある。シュートコース、相手選手の位置、自分の体勢の維持。これだけの情報を一瞬で処理している間、手や腕への軽い接触は意識から抜け落ちる。「絶対に当たっていない」という主張は、本人にとって本心であっても、映像との一致を保証しない。
複数アングルで映像確認できるVARの介入には、それだけの意味がある。
まとめ
PA内ハンドの判定は「当たったか」ではない。「どこに、どの位置で当たったか」だ。
- 反則は意図的か、不自然に体を大きくしているかの2パターン
- 体の自然な動きの範囲内ならハンドではない
- 不自然かどうかは、競技者の動きとの整合性で決まる
- PK時の懲戒罰は2024/25改正で整理済み
VARが入っても判定は分かれる。規則そのものに解釈の幅があるからだ。誰かの誤りではなく、競技規則の構造としてそうなっている。
ハンドで議論になるシーンを見るとき、注目すべきは手の位置と体の動きとの整合性だ。
参考
コメント