【CL準決勝③】メンデスは2枚目のイエローを免れたのか|第4審判の介入と「警告1枚持ち」の運用

【CL準決勝③】メンデスは2枚目のイエローを免れたのか|第4審判の介入と「警告1枚持ち」の運用

2026年チャンピオンズリーグ準決勝、バイエルン×PSGの2ndレグ。29分頃、すでに警告を1枚受けていたPSGのヌノ・メンデスが、バイエルンのコンラート・ライマーの前進を肩の高さで広げた右腕でブロックした。ボールはメンデスの腕に当たった。

主審ジョアン・ピニェイロ(ポルトガル)は即座に笛を吹き、左腕でバイエルン側のFKを示そうとした。メンデスは警告1枚持ち。誰の目にも2枚目のイエロー=退場が見えていた瞬間だった。

ところが、ピニェイロがFKポイントに着く前に第4審判から無線で介入が入った。「それより前にライマーがハンドをした」という助言だった。ピニェイロは判定を覆し、PSGの間接FKに変更。メンデスはイエローを受けず、試合終了まで出場し続けた。

バイエルンのヴィンセント・コンパニ監督は試合後「ライマーが手で触ったとは見えない」と発言。ライマー本人もDAZNのインタビューで「ボールは自分の腹で扱ったと思っていた。なぜ5秒後に主審が自分のハンドを取ったのか分からない」「いつから第4審判が試合に介入するようになったんだ」と疑問を呈している。元ドイツ代表のミヒャエル・バラック氏も「あれは試合を決定づける場面だった。彼らはイエローを出したくなかったのだと思う」とドイツ紙『Bild』に語った。

このCL準決勝シリーズでは、第1戦のネベス案件(【CL準決勝①】)、デイビス案件(【CL準決勝②】)と、ハンドにまつわる議論が続いてきた。今回はその完結編として、メンデス案件を3つの論点で整理する。


目次

論点1:メンデスのハンドはLaw 12該当か

まず映像から動作を切り出す。

メンデスはライマーの前進方向に体を入れる構えで、右腕を肩の高さまで上げて広げていた。ボールはその腕に当たった。

Law 12(反則と不正行為)はハンドが反則となるケースを列挙しており、その一つに「手・腕で体を不自然に大きくしてボールに触れる」というものがある。「ハンドにならないケース」の冒頭にも”Except for the above offences”(上記の反則を除いて)という前置きがあり、自分の体経由でも腕の位置が不自然なら反則として扱われる、という構造になっている。

メンデスの腕の位置は、この「不自然に体を大きくする」に該当する方向で評価される可能性が高い。肩の高さで広げた腕は走行・反応の自然な範囲とは言いにくく、ライマーの前進を腕で阻む構えだったことも明らかだった。前回のデイビス案件では「腕が広がるタイミングは蹴られた瞬間」「もも掠りからの跳ね返り」という複層のグレーがあったが、メンデスの場面はそれよりもシンプルに「腕の位置が不自然」と言える状況だった。

このため、ピニェイロ主審が即座に笛を吹いてバイエルンFKを示そうとしたのは、Law 12の判断として筋が通っている。


論点2:警告1枚持ちの選手への2枚目判定

メンデスはこの29分の場面より前、オリーゼに対するトリップでイエローカードを受けていた。警告1枚持ちの選手が、ハンドの反則に該当する行為で攻撃を阻止した――これが運用上の重要な前提になる。

警告1枚持ちの選手への2枚目判定は、原則として1枚目を持っていない選手と同じ基準で判定する。試合をコントロールするために2枚目を出し渋ることは、ルール上も運用上も筋が通らない。

私、JFA2級審判員として地域リーグや高校生年代の試合で笛を吹いていると、警告1枚持ちの選手のプレーには無意識のうちに目が向くことがある。次のファウルで退場になる選手を、試合の早い時間(メンデスの場合は前半29分)に出すことの試合への影響は大きい。だから「同じ基準を適用する」という原則と「試合への影響を考えて慎重になる」という現実が、判定のなかで多少せめぎ合うのは事実だ。

ただし、このせめぎ合いはカテゴリーが上がるほど小さくなる。トップカテゴリーの審判ほど、「2枚目だから基準を変える」という意識を持ち込まない。判定基準は固定で、行為の重さで判定する――これが上級審判員の鉄則だ。

ピニェイロ主審が一度笛を吹いてFKを示そうとしたのに、第4審判の介入を受けてその判定を覆したという経緯について、コンパニ監督は次のように語っている。

「主審はメンデスにすでに1枚出していたから、退場させたくなくて、判定を反対側に向けたのだと感じた」

これが事実かどうかは外からは分からない。ただピニェイロが一度バイエルン側に判定を示そうとした事実、第4審判の介入が入った事実、結果として2枚目が回避された事実――この3つを並べると、コンパニの読みが完全に外れているとも言いにくい。


論点3:第4審判の介入をどう見るか

ここが今回の事案で最も議論を呼んだ部分になる。

まず前提として、第4審判が主審に助言すること自体は珍しくない。インカムが標準装備されているUEFA/FIFAレベルの試合では、主審・副審・第4審判・VARが常時通信していて、判定について会話が交わされている。退場に関わるファウルやタッチライン際のプレーは、第4審判から「見えていた範囲」をサポートする会話が普通に発生する。インカム時代の試合運営において、第4審判の関与はゼロではなく、運用としては存在する

つまり「第4審判が介入したこと自体が異例」という言い方は、必ずしも正確ではない。実際、私が高円宮プレミアリーグで第4審判を担当したときも、1級審判員から「第4審判の前を通るタッチジャッジや、退場に関わるファウルはサポートしてほしい」という話があった。第4審判はベンチサイド寄りに位置するため、テクニカルエリア前の接触や、主審から見て死角になりがちなアングルのプレーについては、主審以上に良い視野を持つ場面が出てくる。第4審判が積極的に関与すべき場所と角度は、実際にある

ではなぜ今回の介入がこれほど議論を呼んだのか。論点を切り分けると、以下の2点になる。

論点A:介入の「形」

主審が一度笛を吹いて判定方向を示しかけた後に、第4審判の助言を受けて判定そのものを反対方向に覆した――この手続きの順序が注目を集める形になった。普段の主審・第4審判の会話は判定が確定する前に行われることが多く、「判定を覆す」ところまで進む例は確かに多くない。バラックが「あのように一つのシーンに介入するのは初めて」と発言したのは、この「形」を捉えている。

論点B:介入の「内容」

第4審判の助言は「ライマーが先にハンドをしていた」というものだった。だがライマー本人は「ボールは自分の腹で扱ったと思っていた」と証言、コンパニも「手で触ったとは見えない」と発言している。映像でライマーのにボールが当たっている瞬間を確認するのも難しい。第4審判が認定した内容そのものに事実関係の疑問がある、というのが論点Bになる。

論点Aだけなら「異例の形だが筋は通る」と言える余地もある。だが論点Bが重なることで、「異例の形で介入した上に、その内容が映像と整合しない」という二重の問題になっている。

それと付随する話として、ピニェイロ主審のCL経験は決して多くない(2024-25シーズン5試合、2025-26シーズン7試合程度)。対して第4審判のエスペン・エスケース(ノルウェー)は、CLの経験ではピニェイロより先輩格にあたる。主審より第4審判のほうがCL経験で上という構図は、実際にレフェリーをやっていれば理解できる。経験の浅い主審が、経験豊富な第4審判から「ライマーがハンドをしている」と言われれば、その助言を取り入れたくなる気持ちはよく分かる。この心理は責められるものではないが、結果として論点Bの誤認を覆せなかったことには繋がっている


なぜVARは関与しなかったのか

ここで気になるのが、VARの不在だ。

現行のIFAB VARプロトコル(2025/26シーズン)では、VARの介入対象は限定列挙で、「ゴール/ノーゴール」「PK/ノーPK」「ダイレクトレッド(2枚目の警告は除く)」「警告・退場時の人物誤認」の4種類のみ。「2枚目のイエロー」は介入対象に含まれていない。メンデスのケースは「2枚目を出すかどうか」の場面なので、VARが映像で「ハンドはLaw 12該当、2枚目相当」と判断しても、現行プロトコル上は介入できない。

なお、IFABは2026年2月のAGMで、VARの権限を「誤って出された2枚目」の取消にも拡張することを承認している。施行は2026年7月1日(W杯から)で、このCL準決勝(5月6日)の時点では未施行だった。

そして仮に新プロトコル下でも、主審が出さなかった2枚目を出させる権限はVARに与えられていない。「誤って出された2枚目を取り消す」のはOK、「出されなかった2枚目を出させる」のはNG――これが新ルールの内容になる。メンデスのケースのように「出すべきだったのに出されなかった2枚目」は、新旧どちらのプロトコルでもVARの守備範囲外になる。


サッカーの精神という前提

ここまで第4審判の介入を厳しく評価してきたが、最後に1つ大事な前提を置きたい。

サッカーは、すべての判定が技術や手続きで補正されるべき競技ではない。Law 5には「主審の決定は最終のものである」と書かれており、IFAB競技規則の冒頭「サッカーの精神」にも、主審の判断と試合の流れを尊重する思想が貫かれている。VAR導入後も、その基本構造は変わっていない。

審判は人間で、判断には常に幅がある。同じ場面を見ても、人によって「正しい」が異なる。それがフットボールという競技の性質で、すべてのミスを技術や手続きで潰す方向に進めば、競技そのものの性格が変わってしまう。

その上で今回のメンデス案件を見ると、論じるべきは「判定の正解探し」よりも、第4審判の介入の形と内容だ。介入の形は議論の余地があり、内容は映像と整合しない疑いが強い。それが今回の事案に対する実際の評価になる。


実際の試合に持ち帰れること

警告1枚持ちの選手のプレーは、実際の試合では目が向くものだ。だが原則は「2枚目だから基準を変えない」。1枚目相当の行為があれば、2枚目を出すのが教科書的な答えになる。育成年代でも、警告管理を理由に判定基準を変えることは避けたい。上級になればなるほど、この鉄則は徹底される。

第4審判やAR、VARとの会話は、インカム時代の試合運営の一部だ。「会話があったから異例」ではなく、「会話の内容(事実認定)が映像と整合するか」「会話の結果として判定を覆す手続きが注目を集める形になるか」――その2点を分けて評価することが、運用の正しい読み方になる。

経験豊富な第4審判の助言を、経験の浅い主審が取り入れたくなる心理は、実際にレフェリーをやっていれば誰でも分かる。だがその心理が結果として誤認を覆せない方向に作用することもある。最終的な判定者は主審で、自分の目で見た事実を信じる――この基本は、どのカテゴリーでも変わらない。


まとめ:メンデスは2枚目のイエローを免れたのか

メンデスのハンドは、肩の高さで広げた腕でボールを止めたという動作からして、Law 12の「不自然に体を大きくする」反則として評価される可能性が高い場面だった。ピニェイロ主審が一度笛を吹いてバイエルンFKを示そうとしたのは、その評価に沿った判断だった。

ところが第4審判の介入で「ライマーが先にハンドをしていた」とされ、判定が覆された。第4審判が主審に助言すること自体は、インカム時代のトップカテゴリーでは特別なことではない。問題は介入の形(笛を吹いた後の覆し)が注目を集めたこと、そして介入の内容(ライマーのハンド認定)がライマー本人とコンパニの発言、そして映像と整合しないことだ。経験の浅い主審が経験豊富な第4審判の助言を取り入れた構図も、結果として誤認を覆せなかった一因になっている可能性がある。

VARは、現行プロトコル上「2枚目のイエロー」は介入対象外。2026年7月以降の新プロトコル下でも、出されなかった2枚目を出させる権限はVARにない。つまりこの場面は、第4審判の介入を覆す手段がプロトコル上は存在しなかった。

サッカーは主審の判断を尊重する競技だ。判定の正否を後から技術で補正することには限界があり、それでよいというのがLaw 5・Law 6・サッカーの精神に流れる思想になる。今回のメンデス案件で問うべきは、「2枚目を出すべきだったか」の正解探しよりも、第4審判の介入の形と内容――その2点だ。


これで【CL準決勝】3部作は完結する。1stレグのネベス案件で「味方ルール」を、デイビス案件でVAR介入の閾値を、メンデス案件で第4審判の介入を扱った。3つに共通するのは、条文の文言だけでは判定が決まらず、運用や手続きの解釈が結論を左右するという構造だった。条文を読むことと、運用を読むこと――実際にレフェリーをやる側に求められるのは、その両方をセットで持っておくことになる。

シリーズ全3記事


参考:
IFAB Laws of the Game 2025/26 Law 6(その他の試合役員)
IFAB Laws of the Game 2025/26 Law 12(反則と不正行為)
– Bavarian Football Works「Konrad Laimer talks controversial handball decisions after Bayern v PSG」
– Sports Illustrated「Why Bayern Munich Were Denied ‘Handball’ Penalty vs. PSG in Champions League Semifinal」

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