【CL準決勝①】ネベスのハンドがノーPKだった本当の理由|「味方ルール」はIFAB条文に書かれていない

【CL準決勝①】ネベスのハンドがノーPKだった本当の理由|「味方ルール」はIFAB条文に書かれていない

2026年5月6日、チャンピオンズリーグ準決勝2ndレグ、バイエルン1-1 PSG。2戦合計5-6でPSGが決勝進出を決めたこの試合は、内容以上にハンドの判定が大きな議論を呼んだ。

実はこの2試合、揉めたハンド事案は3つあった。

  1. 1stレグ:アルフォンソ・デイビス(バイエルン)のハンドでPK
  2. 2ndレグ:ヌノ・メンデス(PSG)のハンドがノーファウル
  3. 2ndレグ:ジョアン・ネベス(PSG)のペナ内ハンドがノーPK

本記事では、最も論点がクリアな③ネベスのケースを取り上げる(①と②は別記事で扱う予定)。

日本の多くの媒体は「味方からのボールが手に当たってもハンドにならない」というルールを根拠に「正しい判定」と説明している。

だが結論から言うと、この説明はIFAB競技規則の条文の正しい読み方ではない

JFA2級審判員の立場から、現行のLaw 12を引きながら整理する。

目次

何が起きたのか

前半30分頃、PSGが1-0でリードする展開。バイエルンの攻撃に対し、PSGのMFヴィティーニャがクリアを試みる。彼の蹴ったボールが至近距離にいた味方ジョアン・ネベスの腕に当たった

ネベスの腕は明らかに肩より高い位置で開いていた。バイエルンはPK要求、しかし主審はノーファウル、VARも介入なし。

直後にバイエルン側はベンチも含め大きく抗議。ヴィンセント・コンパニ監督も試合後の会見で「彼の手は上に上がってボールに当たった。味方からだからPKじゃないというが、両方合わせて常識で見れば馬鹿げている」と発言した。

媒体が説明する「味方ルール」とは

英国・日本の多くの媒体は、Goal.comなどを引用してこう説明する。

味方がプレーしたボールが選手の手や腕に当たっても、直接ゴールに入るか即時の得点機会につながらない限り、ハンドにはならない

これだけ読むと「ネベスのケースは味方ヴィティーニャからのボールだから自動的にノーハンド」と理解してしまう。

しかしIFAB競技規則を直接当たると、条文にこんな書き方の例外は存在しない

実はLaw 12にそんな例外は書かれていない

2025/26版のIFAB Laws of the Game、Law 12のハンド規定は以下の構造になっている。

反則となるのは:

  • 意図的に手・腕でボールに触れる
  • 手・腕でボールに触れた後、保持・コントロールしてゴールを決める、または決定機を作る
  • 手・腕から直接相手ゴールに入る(偶発的でも、GKでも)
  • 手・腕で体を不自然に大きくしてボールに触れる(肩より高い位置を含む)

そして条文には、こうも書かれている。

上記の反則は、ボールが近くの他のプレーヤーの頭や体(足を含む)から直接自分の手・腕に当たった場合にも適用される

ここに「味方」「相手」の区別はない。近くにいる他者からの跳ね返りでも、不自然に大きい等の条件を満たせば反則になりうる、と読むのが条文どおりの解釈だ。

逆にハンドではないとされるのは:

  • ボールが自分自身の頭や体(足を含む)から跳ね返って自分の手・腕に当たった場合
  • 手・腕が体に近く、不自然に大きくしていない場合
  • 倒れた際に体を支える手が、横や上に伸びていない場合

つまり「自分の体から自分の手」例外は条文にあるが、「味方の体から自分の手」例外は条文として書かれていない。

条文が本当に問うているのは「腕の位置が不自然か」

ではネベスのケースで何が判断されたのか。

主審・VARが「ノーファウル」とした論理的な道筋は、条文ベースで言えば次のどれかになる。

  1. ネベスの腕の位置が「不自然に大きく」していなかった、と判断した
  2. 意図的でなく、かつ即時の得点機会も生んでいないため、反則の構成要件を満たさない
  3. 至近距離からの当たりで、不自然性の要件を満たさないと判断

つまり、争うべきポイントは「味方ルール」ではなく「腕の位置が不自然だったか」だ。

映像で見るとネベスの腕は明らかに肩より高く、開いていた。元ドイツ国際審判のマヌエル・グレーフェも「腕が高い位置にあった」と疑義を呈している。条文どおりに評価すれば、「不自然に大きい」を適用する余地は十分にあった

2021年コリーナ発言と運用が緩んだ歴史

ではなぜ媒体が一律に「味方ルールでノーPK」と説明するのか。背景がある。

2019年から2021年にかけて、IFABは「手に当たって得点した、または直接得点機会を作った場合は、偶発的でも反則」という運用を導入した。これにより「攻撃側の選手の腕に偶発的に当たって入ったゴール」が次々取り消された。

これに対し、当時FIFA審判委員長だったピエルルイジ・コリーナが2021年に「行き過ぎだった」と認め、運用が緩和される。具体的には:

  • 攻撃側選手が直前の偶発ハンドで得点・決定機を作った場合 → 反則
  • 守備側のペナルティエリア内ハンドは、従来どおり「意図的か」「不自然に大きいか」で判断

この緩和を、メディアが「味方からのボールはハンドじゃない」と一般化して説明したことで、実際には守備側のペナ内ハンドには適用されない緩和ルールが、まるで全ての場面で通用する例外のように広まってしまった。

ネベスのケースは「守備側がペナ内で腕を上げてボールに当たった」ケースなので、緩和の対象外。本来は「不自然性」で評価すべき場面だったというのが、条文ベースの読み方になる。

ではネベスのケースをどう評価すべきか

整理すると、こうなる。

観点 評価
味方からのボールだからノーPK ✕(条文にそんな例外はない)
意図的なハンドだったか ✕(意図はなさそう)
即時の得点機会だったか △(クリア局面なので議論あり)
腕が体を不自然に大きくしていたか ○(肩より高く開いていた)

不自然性の観点で言えば、PKを与える判定があってもおかしくなかった、というのが率直な見方だ。少なくとも「味方からだから一発でノー」と切って捨てるべき場面ではない。

まとめ:日本の審判・指導者に伝えたいこと

このケースで審判・指導者が押さえておきたいのは3点。

  1. 「味方からのボールだからハンドじゃない」というルールは、IFAB条文には存在しない。それは2021年の運用緩和の俗説的な説明にすぎず、特に守備側のペナ内では当てはまらない。
  2. ハンドの判断軸は今もこれまでも、「意図的か」「腕の位置が不自然に体を大きくしていないか」の2点。これは育成年代の判定にもそのまま当てはまる。
  3. 「メディアの解説」と「条文の規定」は別物。指導者・審判は競技規則本体を直接読む習慣を持つべき。

CLという最高峰の舞台で物議を醸した判定だが、実際の審判活動に活かせる教訓は多い。条文に立ち返ることで、判定の論理は驚くほどクリアに整理できる。


次回以降の予告:

このシリーズでは、CL準決勝バイエルン×PSGで揉めた残り2つのハンド事案も同じく条文ベースで掘り下げます。

  • :1stレグのデイビス(バイエルン)のPK判定はなぜ取られたのか。「自分の体→自分の手」例外との関係
  • :2ndレグのメンデス(PSG)のノーファウル。警告管理と「2枚目を出す/出さない」の運用論

それぞれ別記事で順次公開予定です。


参考:
IFAB Laws of the Game 2025/26 Law 12
– JFAサッカー競技規則 第12条(反則と不正行為)

関連記事(内部リンク候補):
– 【ルール解説】ハンドの反則になる条件とならない条件
– 【判定】PKを与えるべきか迷う3つの場面
– IFAB競技規則を初心者でも読みこなすコツ

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