審判への暴言はどこからカード?競技規則第12条の境界線を現役2級審判が解説

「お前の目は節穴か!」――試合中に審判に対してこう叫ばれたら、あなたならどう判断しますか?

先日、Threadsで「4級の頃に監督に言われた言葉。今なら迷わずレッドカード」という投稿をしたところ、「え、レッドなの?」という反応が多数寄せられました。実は競技規則第12条には、審判への言動に対する懲戒基準が明確に定められています。しかし、知らない指導者・保護者審判がまだまだ多い領域です。

この記事では、現役の2級審判として、「どこからカードが出るのか」の境界線を、実際の事例を交えて解説します。

この記事を書いた人
高校教員 × JFA公認2級審判員 × C級コーチ。神奈川県を中心に年間数十試合を担当。Instagram「サッカー審判のリョータ」(フォロワー1,000人超)で審判向けの実践情報を発信中。

目次

【前提】競技規則第12条が定める3つのカテゴリ

サッカーの競技規則第12条「ファウルと不正行為」では、審判への言動が懲戒対象として3段階に分類されています。

カテゴリ 処分 定義
異議 警告(イエローカード) 言葉または行動により異議を示す/繰り返す/プレー再開を遅らせる
侮辱・攻撃 退場(レッドカード) 攻撃的/侮辱的/下品な発言・行動をとる
処分なし 口頭注意 敬意ある範囲での意見・確認

この3段階をベースに、具体的なケースを見ていきます。

ケース別|言動とカードの対応

ケース1:「今のはPKだろ!」→ 警告(イエロー)

判定そのものへの不満表明です。「異議」に分類されます。

1回目は口頭注意で済ませることが多く、繰り返された場合に正式な警告対象になります。感情的な発言であっても、審判の人格ではなく判定内容への意見なので、この段階では警告レベルにとどめるのが一般的です。

ケース2:「お前どこ見てんだ!」→ 警告(イエロー)

少し語気は強いものの、これも「異議」の範囲内と解釈されるケースが多い表現です。判定への不満を表しているだけで、審判の能力そのものを否定しているとは言えないためです。

ただし、威圧的な態度や繰り返しがあれば、主審の判断でより重い処分に発展する可能性があります。

ケース3:「お前の目は節穴か!」→ 退場(レッド)※筆者の見解

ここからは一線を越えると、筆者は考えています。

「節穴」という言葉は判定への意見ではなく、審判の能力そのものを否定する表現です。第12条の「侮辱的な発言」に該当する可能性が高く、筆者ならレッドカードの判断をします。

とはいえ、「異議」と「侮辱」の境界は我々審判にとっても難しい判断です。明確な線引きはなく、その場の状況・発言のトーン・繰り返しの有無などを総合的に判断します。ただし「節穴」のように審判の能力・人格を攻撃する言葉は、多くの審判が侮辱カテゴリに入れると思います。

ケース4:「死ね」「バカ」「無能」→ 即時退場(レッド)

これらは議論の余地なく即退場です。「攻撃的」「侮辱的」「下品」の3要素を全て満たすからです。

試合中に1回でもこれらの言葉が発せられたら、主審は迷わずレッドカードを提示する権限があります。意外とこの権限が知られていないため、指導者・選手にも認識してほしいポイントです。

ケース5:皮肉な拍手・嘲笑う仕草 → 警告(イエロー)

言葉ではなく行動による異議です。皮肉な拍手、わざとらしい頷き、嘲笑うような仕草は「行動による異議」としてイエローカード対象になります。

実例|2026年4月 ベガルタ仙台 安野匠選手の事例

このルールが実際の試合で適用された典型例が、2026年4月4日のJ2・J3百年構想リーグ、ベガルタ仙台vsザスパ群馬です。

試合の73分、途中出場していたベガルタ仙台の19歳FW・安野匠選手が、ハイボール競り合いでファウルを取られた直後にボールを大きく蹴り出し、1枚目のイエローを受けました。その後、主審に向かって皮肉めいた拍手を見せ、立て続けに2枚目のイエロー=退場処分となりました。

公式記録には「反スポーツ的行為」と「遅延行為」と刻まれています。この一件で試合の流れが一変。数的不利となった仙台は90分に同点弾を浴び、PK戦で辛うじて勝利しました。試合後、森山佳郎監督は「あまりにも軽率」「許しがたい」と激怒し、キャプテンの松井蓮之選手が退場する安野選手の胸ぐらを掴んで叱責する場面もSNSで大きく話題になりました。

主審の判断は毅然としていて、ルール通りの正当な処理でした。

実例|2026年2月 香川真司選手の事例

一方で、「ルール上はレッド相当だが主審がイエロー止まりにした」ケースもあります。

2026年2月22日、明治安田J1百年構想リーグのセレッソ大阪vsサンフレッチェ広島戦。広島のゴール直後、C大阪の香川真司選手が不要なファウルでイエローを提示された際、主審に対して拍手とサムズアップを見せました。

解説者の木場昌雄氏やファンからは「これはレッドでは?」という声が上がりましたが、主審はレッドを出さず、そのまま試合が再開されました。

ここがサッカー現場のリアルです。同じ「皮肉な拍手」でも、主審が「イエロー止まり」と判断するか「2枚目のイエロー=退場」と判断するかで対応が変わります。プロの試合でもこれだけ判断が分かれる領域なので、「拍手だからセーフ」と思い込むのは危険です。

4級審判時代に黙るしかなかった話

個人的な話をすると、4級審判をしていた頃は「お前どこ見てんだ!」と試合中にずっと叫ばれても、カードを出せずに黙って試合を続けた経験があります。

ルールは知っていました。でも、出す自信がなかった。これが4級審判の現実です。

ただ、知っておいてほしいのは、ルール上は4級審判でも堂々とカードを出せるということ。出さないことで指導者の言動が増長し、結果的に次の主審が同じ目に遭う「負の連鎖」が生まれます。

迷った時の判断3基準

現場で「これはカード出すべきか?」と迷った時、筆者は以下3点で判断しています。

  1. 判定への意見か、人格攻撃か(意見ならイエロー止まり、人格攻撃ならレッド寄り)
  2. 初回か、繰り返しか(初回は口頭注意で様子見、繰り返しは警告)
  3. その場に子どもがいたら、聞いて悲しむ言葉か(特にユース年代で重要)

特に3番目は、ユース年代の試合では極めて重要です。子どもたちはベンチ大人の言葉をすべて聞いています。審判が毅然と対応することで、「サッカーにおける敬意」を次世代に伝えることができます。

よくある質問(Q&A)

Q1. ベンチの監督・コーチの言動にもこの基準は適用されますか?

はい、適用されます。2019年のルール改正で、監督・コーチにもイエロー・レッドを提示できるようになりました。ベンチからの暴言は、選手と同じ基準で処分対象になります。

Q2. 保護者からの暴言にはどう対応すれば良いですか?

保護者は競技規則の直接対象外ですが、主審は「競技運営を妨害する者」として運営側に対応を求めることができます。試合を一時中断してベンチ責任者に対応させる、という手順が一般的です。

Q3. 選手から「今のは厳しい判定じゃないですか?」と丁寧に聞かれた場合は?

これは「敬意ある範囲での確認」なので処分対象外。逆に、審判として簡潔に理由を説明すると信頼関係が築けます。

Q4. イエローを出すべきか迷って出さなかった場合、後で追加処分できますか?

試合中なら、次の暴言発生時にまとめてカードを提示することが可能です。試合後の追加処分は、協会への報告書を通じて行われることもあります。

Q5. 少年サッカーでも同じ基準で判定すべきですか?

基本的には同じ基準です。ただし、ジュニア年代では教育的な口頭指導を優先するのが一般的。いきなりカードではなく、まず注意で済ませる判断がより多くなります。

まとめ

  • 「異議」はイエロー、「侮辱」はレッド
  • 「どこ見てんだ」は異議の範囲、「節穴か」は侮辱寄り
  • 皮肉な拍手などの行動も異議扱いでイエロー
  • 2026年4月の安野選手は皮肉な拍手で2枚目イエロー→退場の実例
  • 明確な線引きは難しく、最終的には主審の総合判断
  • 4級審判でもルール上は堂々とカードを出せる

審判への言葉には、競技規則できちんと境界線が引かれています。指導者・保護者・審判、全員が知っておくべきルールです。


Instagram「@soccer_referee_ryosuke」では、審判判定の実例を毎日配信しています。

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