「日本人選手って異議少ないよな」を世界データで検証してみたら衝撃の結果に
サッカー審判をやっていると、ふと思うことがあります。
「日本の選手って、本当にカードが少ない」
異議でカードを切ることはほぼなし。VARの判定にも素直に従う。明らかに不利な笛にも食ってかからない。これって当たり前のように見えて、世界基準だと実はかなり特殊なんじゃないか…と前から気になっていました。
今回、たまたまヨーロッパ5大リーグの退場データを調べる過程で、FIFA・スイス政府が共同設立した独立研究機関 CIES Football Observatory の世界63リーグ統計に行き着き、見つけてしまいました。
結論から言います。Jリーグの規律性、世界一でした。
しかも「ちょっと上位」レベルじゃなく、2位以下に大差をつけてぶっちぎりの1位。J1とJ2でワンツーフィニッシュ。「日本の選手は規律正しい」と漠然と思っていたのが、まさかここまでのレベルだったとは。
このレポート、実際に吹いている審判仲間にも、Jリーグを観ているサッカーファンにも、ぜひ読んでほしい内容です。
世界63リーグ規律ランキング|J1とJ2が1-2フィニッシュ
まずデータの出典から説明します。CIES Football Observatory はスイスのヌーシャテル大学・FIFA・ヌーシャテル州が1995年に共同設立した独立研究機関で、サッカー界では選手の市場価値分析やリーグ統計で広く引用されている権威ある組織です。
そのCIESが2025年3月26日に発表した調査が「Weekly Post 497:Fouls and penalty cards」。2024年3月20日〜2025年3月20日までの世界63リーグの試合データを、StatsPerformとWyscoutから集計したものです。
その中の「Fouls/card(カード1枚を出すのに必要なファウル数)」ランキング上位はこうなっています。
| 順位 | リーグ | Fouls/card | Cards/match | Fouls/match |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | 🇯🇵 J2リーグ | 10.84 | 2.39 | 21.5 |
| 2位 | 🇯🇵 J1リーグ | 10.50 | 2.58 | 23.4 |
| 3位 | 🇷🇸 セルビア・スーパーリーガ | 10.43 | 4.46 | 30.8 |
| 4位 | 🇸🇪 アルスベンスカン | 9.25 | 3.49 | 24.3 |
| 5位 | 🇨🇳 中国スーパーリーグ | 9.19 | 4.32 | 26.4 |
※カード1枚を出すために必要なファウル数。数値が大きいほど「審判はファウルがあってもなかなかカードを出さない/選手が悪質なプレーをしない」ことを意味する
J1とJ2が世界の1位2位を独占しています。3位のセルビアとは0.06しか差がないように見えますが、ここで注目すべきは Cards/match(試合あたりカード数)。J1は2.58、J2は2.39。一方セルビアは4.46。
つまりセルビアは「ファウルが多くてカードも多い」リーグ、Jリーグは「ファウルもカードも少ない」リーグ。同じFouls/card値でも、内実はまったく違う。Jリーグだけがダブルで規律高いのです。
5大リーグとの比較|J1のカード数は「ほぼ半分」
欧州5大リーグと並べてみるとさらに鮮明になります。
| リーグ | Fouls/card | Cards/match | Fouls/match | Cards for fouls (%) |
|---|---|---|---|---|
| 🏴 プレミアリーグ | 7.29 | 4.38 | 22.0 | 68.9% |
| 🇪🇸 ラ・リーガ | 7.28 | 5.05 | 24.6 | 66.8% |
| 🇩🇪 ブンデスリーガ | 7.49 | 4.21 | 21.4 | 68.0% |
| 🇮🇹 セリエA | 8.04 | 4.13 | 24.8 | 74.7% |
| 🇫🇷 リーグ・アン | 8.07 | 4.26 | 24.3 | 70.7% |
| 🇯🇵 J1リーグ | 10.50 | 2.58 | 23.4 | 86.2% |
3つのポイントが見えてきます。
① ファウル数自体は5大リーグと同じくらい
Fouls/match(試合あたりファウル数)を見ると、J1は23.4。プレミアの22.0、ブンデスの21.4より少し多いくらいで、ラ・リーガの24.6やセリエAの24.8とほぼ同水準。「日本人選手はファウル自体が少ないから規律が高い」というのは誤解で、実際にはファウルは欧州とほとんど変わらないペースで起きています。
② カード数だけが「異常に少ない」
Cards/match を見ると、J1は2.58。プレミアの4.38に対して約59%。ラ・リーガの5.05に対しては約51%、ほぼ半分です。
同じくらいファウルが起きているのに、カード数は半分。これはつまり「ファウルの中身(質)」が違うか、「審判の判断基準」が違うか、その両方。後で詳しく見ますが、たぶん両方です。
③「ファウル理由のカード」割合が86.2%という突出値
これが今回一番面白かったデータです。Cards for fouls (%) は、出されたカードのうち「ファウル」が理由のものの割合。残りは異議・遅延行為・反スポーツ的行為・距離不足・シミュレーションなどです。
5大リーグはどこも66〜75%。つまりカードの25〜33%は「ファウル以外の理由」で出ている。プレーが原因じゃない、いわゆる「マナー違反系」のカードが3〜4枚に1枚あるということ。
一方J1は86.2%、J2は82.9%。カードの約85%がファウル絡みで、残り15%しか「マナー違反系」がない。
これは何を意味するか。「日本のサッカーでは、異議・遅延・シミュレーションでカードが出ること自体がほとんどない」ということです。
J1リーグ2025の退場29件、理由を全部調べてみた
ここからは応用編。J1の2025シーズン全38節(380試合)で出た退場29件、その全部の理由内訳を見てみます。
実はJリーグ、世界でも珍しいくらい審判データの公開度が高くて、IFAB Law 12(ファウルと不正行為)に基づく7区分の理由コードを試合公式記録に載せています。これを集計したのがこちら。
| 区分 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 警告2枚(CS/累積警告による退場) | 11件 | 37.9% |
| 得点機会阻止 – ファウル等(S5/DOGSO) | 9件 | 31.0% |
| 著しく不正なプレー(S1/Serious foul play) | 7件 | 24.1% |
| 乱暴な行為(S2/Violent conduct) | 1件 | 3.4% |
| 侮辱(S6/Offensive language) | 1件 | 3.4% |
| 得点機会阻止 – ハンド(S4) | 0件 | 0% |
| 唾を吐く(S3) | 0件 | 0% |
| 合計 | 29件 | 100% |
※出典:soccer-db.net「2025 明治安田 J1リーグ 警告・退場データ」(J.League公式記録より集計)
この内訳から見えてくるのは、Jリーグの退場のほとんどが「悪意」ではなく「戦術判断」または「累積警告」という事実です。
- 累積警告(37.9%):そもそも警告が累積するまでプレーしている時点で、悪意のあるアクションではない
- DOGSO関連(31.0%):守備の最後の砦で「行くしかない」状況での戦術的ファウル。審判としては取りに行くしかないやつ
- 著しく不正なプレー(24.1%):いわゆる「危険なタックル」系。これは判定対象
そして注目すべきは下の3つ:
- 乱暴な行為:1件のみ。J1全380試合で殴った蹴った系の暴力的行為がたった1件
- 侮辱:1件のみ。審判や相手選手への暴言系もたった1件
- 唾を吐く:0件。これは…ほぼ起きないので当然と言えば当然
世界的に見て、J1の退場29件中「悪意系」(S2 + S6)はわずか2件、6.9%。残り93.1%は「プレー絡み」または「累積警告」です。
欧州5大リーグの退場数(参考データ)
2024/25シーズンの公式数字も並べておきます。
| リーグ | 退場数 | 試合数 | 試合あたり |
|---|---|---|---|
| セリエA 🇮🇹 | 79 | 380 | 0.208 |
| ラ・リーガ 🇪🇸 | 78 | 380 | 0.205 |
| ブンデスリーガ 🇩🇪 | 55 | 306 | 0.180 |
| プレミアリーグ 🏴 | 52 | 380 | 0.137 |
| J1リーグ 🇯🇵 | 29 | 380 | 0.076 |
※出典:ESPN各リーグ Discipline Stats、Jリーグ公式記録
J1の退場率は5大リーグで最も低いプレミアリーグの約56%(ほぼ半分)、最も高いセリエAの約36%。同じ「世界トップカテゴリのプロサッカー」でも、これだけ差が出る。
世界の「カード記録」トリビア
少し視点を変えて、世界のえげつないカード記録もご紹介。
個人通算赤カード歴代1位:ゲラルド・ベドヤ(コロンビア)
20年のキャリアでなんと 通算46枚の赤カード。年平均2枚以上の退場。コロンビアとアルゼンチンでプレーし、激しすぎるプレースタイルで知られた選手です。代表での赤カード2枚はこのカウントに含まれず。
歴代2位:セルジオ・ラモス(スペイン)
レアル・マドリードのレジェンドが 通算26枚 で堂々の2位。J1の2025シーズン全体で出た退場29枚を、ラモス1人でほぼ稼げる計算です。
1試合最多赤カード:36枚
2011年、アルゼンチン5部のクレイポール vs ビクトリアーノ・アレナス戦。試合中に大乱闘が発生し、主審のダミアン・ルビオがレポートに記録した赤カードは 1試合で36枚。フィールド上の選手22枚+控え選手・スタッフ14枚という壮絶な内訳。
ホワイトカード:ポルトガルの逆カード
2018年からポルトガルで導入されている「ホワイトカード」。これはフェアプレーや模範的な行動を称えるためのカード。世界初のホワイトカードは2023年1月21日の女子ベンフィカ vs スポルティング戦で、観客が倒れた際に医療スタッフが迅速に対応したことに対して提示されました。
もしこれが世界中で導入されたら、J1は…どれだけ出るんでしょうね。
なぜJリーグはここまで規律が高いのか
データを並べたところで、最後に「なぜそうなのか」を考えてみます。これは推測も交じりますが、実際に審判をやっている立場から見て3つの要因があると考えています。
① 日本の文化的バックグラウンド
これは身も蓋もないですが、「審判(権威)に異議を唱えない」「相手をリスペクトする」という社会的規範がそのままサッカーに反映されている部分は大きい。野球やバスケットでも審判への食ってかかりは欧米より少ない。サッカーだけ極端に多いという理由はないので、これは前提条件として効いている。
② JFAの審判教育と選手教育
JFAは育成年代から「審判への異議は警告」を徹底して指導していて、これがプロまで一貫しています。一方、欧州の一部リーグでは育成年代から審判への抗議が「サッカーの一部」として黙認される文化があり、それがプロでもそのまま続いている。
2025年シーズンから「キャプテンオンリー」ガイドラインがJリーグでも本格運用されましたが、Jリーグでは実は「もともとあまり問題になっていなかった」のが本音だと思います。
③ VARの運用方針
JリーグのVARは、欧州よりやや「介入を抑える」運用方針。これにより「VAR判定をめぐる選手の抗議」自体が起きにくい構造になっています。プレミアリーグやセリエAではVARの判定をめぐる選手と審判の長い議論がしばしば起きますが、J1ではそれが少ない。
まとめ|世界一規律ある日本サッカーの数字
今回見てきたデータをまとめます。
- CIES Football Observatoryの世界63リーグ調査で、J1とJ2は規律性ランキング世界1位2位
- J1の試合あたりカード数2.58は、5大リーグのほぼ半分
- カードの86.2%がファウル理由。欧州(66〜75%)と比較して異常に高い=マナー違反系のカードが極端に少ない
- J1 2025シーズンの退場29件のうち、暴力行為と侮辱はそれぞれ1件のみ
- 退場の大半は「累積警告」と「DOGSO等の戦術ファウル」で、悪意ある退場は極めて少ない
「日本選手は規律が高い」という肌感覚は、世界基準のデータでも完全に裏付けられました。それも「ちょっと高い」レベルではなく、世界63リーグでぶっちぎり1位2位。
これは選手・審判・サポーター・JFA・Jリーグ運営、すべての関係者が長年積み重ねてきた文化の結果です。サッカー先進国として「強さ」では欧州や南米に届かない部分もありますが、「規律性」という指標では既に世界トップ。これは誇っていい数字だと思います。
来年以降のJリーグでも、この数字が維持されるのか、あるいは観戦・応援の熱量が増していく中で変化していくのか、審判の立場から引き続き観察していきたいテーマです。
公式競技規則・参考資料
本記事のデータは以下の出典に基づいています。
- CIES Football Observatory Weekly Post 497 – Fouls and penalty cards: global analysis(2025年3月26日発表、データ期間2024/03/20〜2025/03/20)
- soccer-db.net 2025 明治安田 J1リーグ 警告・退場データ(J.League公式記録より集計)
- Jリーグ公式 2025シーズン 退場数(チームスタッツ)
- ESPN Soccer Discipline Stats(各リーグ2024-25シーズン)
- IFAB Laws of the Game 2025/26

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